— メガバスが刻んだ国産スピナーベイトの道標 —
障害物をかわし、ブッシュをすり抜け、着水点からアングラーの手元までバスを誘い続ける。「スピナーベイトはカバーを釣れ」の言葉通り、ほかのハードルアーが侵入を拒まれるエリアをモノともせずに攻めていけるルアー、それがスピナーベイトだ。第一印象のルックスがこれほど奇抜でありながら、長きにわたってバスアングラーに支持され続ける理由はただひとつ、「釣れるから」。使い方ひとつでいろいろな顔を見せるスピナーベイトは、実に奥の深いルアーだ。そして、そんなスピナーベイトのなかでも特別な存在感を放っているのが、今回の主役・V-FLATである。
V-FLATの歴史はメガバスの歴史そのもの
これまでに手掛けてきた数々のルアーのなかで、V-FLATは伊東由樹にとって特別な存在といえる。なぜなら、V-FLATが彼の手によって生み出されてから今年で30年。つまり、その歴史はメガバスの歴史そのものだからである。
伊東がV-FLATの製作を始めたのは1980年代の中頃。当時東京に居住していた伊東は、手製のモールドでV-FLATをひとつ一つハンドメイドし、自らショップに足を運んで販売していた。右も左もわからない若者が、なんのつてもない世界に徒手空拳で飛び込む。その第一歩を託したのが、スピナーベイトだったのだ。
「30年前、メガバス設立前に自作していた“伊東由樹オリジナルスピナーベイト”のアームは、すべてピアノ線だったんですよ」と伊東。当時、スピナーベイトと言えば海外の製品が主流。そんななかで国産のハンドメイドスピナーベイトは、何もかもが手探りの挑戦だった。しかしこのときすでに、伊東の頭の中では「V型でフラットなヘッド形状」というオリジナルのコンセプトが固まっていた。
V-FLATの名の由来でもあるこの斬新なフォルムは、リーズをすり抜けるとき、あえてバランスを崩しやすいよう意図されており、それでいて復元性に優れ、ただ引くだけで自発的なナチュラルリアクション効果を生み出した。障害物に点、または線で接触しては魅力的なフラッタリングアクションを演じるこの特性は、釣果においても革新的な変化をもたらし、米国製砲弾型ヘッドのスピナーベイトが席巻する市場のなかで、徐々に国産スピナーベイトの地位を確立していった。
また、V-FLATにはコロラド、ウィローをはじめブレードタイプが複数存在し、さらにシングル、タンデム、ダブルといったバリエーションを構築。“システマチック”という意味でも、他の国産スピナーベイトの一歩先を走っていた。スピナーベイトの釣り自体がまだまだ手探りの時代にあって、伊東はこのルアーに確信を持ち、妥協のない製品開発に没頭していたのだ。
ハンドメイドのMS001型から最新型V-9まで
1986年に、V-FLATの第1号ともいえる“メガバススピナーベイトMS001型”をハンドメイドモールドによって製作した後、伊東は新たにダイカストモールドを起こしてMS002型にチューンナップ。ネックとなっていた量産性を向上させた。
その後、リアルヘッドの走りとも言われるMS003型V-3が登場。97年にはより高い成型精度と質量管理を実現させたMS005型V-FLATがデビュー。元祖MS001型の、特徴的とも言われるワイドなVヘッドを継承しながらも、近代シャローカバーのより奥の奥へと侵入できるスナッグレスデザインにリファイン。初期からのファンはもとより、新世代のV-FLATユーザーからも高い支持を得た。
そして98年、MS004型がV-4バズベイトとしてデビュー。2000年にはMS005型のスナッグレス性をさらに進化させたMS006型が完成し、さらには新たな試みとして超薄型低重心形状のV-3FLAT SHAD、V-3 BULETT SHADを相次いでリリース。その後も時代に即したリファインを繰り返しながら、現行のMS007型スーパーV-FLAT、チドリアクションのパワーボムを経て最新作のV-9へと発展。メガバスのワイヤーベイトシリーズは、創業当時のクラフトマンシップを継承しながらも、常に新世代に向けた提案を、怠ることなく発信し続けてきたのである。
ところで、V-FLATのコンセプトの源が、関東のバスレイクであることは、意外に知られていない事実。そのあたりの経緯をデザイナーズボイスで明らかにしておこう。