GRIFFON ZEROからSIGLETTへ
メガバスが最初に手掛けた虫型ルアーはクランクベイト。そう、あの名作、グリフォン・ゼロである。2003年、圧倒的釣獲率で一世を風靡したグリフォンをベースに、アイティーオーがハードコアチューンを施したグリフォン・ゼロは、その名の通り水面攻略に性能を特化させた表層系クランクベイト。オリジナルで45.0mm、ベビーで37.8mmという一口サイズのシルエットに、カナブン、タマムシ、シケーダなど虫を強く意識したカラーリング、それに加えて自然な着水音と水面で騒々しく悶える動きは落下昆虫そのもの。野池やリザーバーのスレたビッグバスを次々に仕留める実力は、まさにメガバスの虫系ルアーの原点といえた。
グリフォン・ゼロから4年、ますます加速する虫パターンのムーブメントのなかで2007年に発表したのが、パガーニの第3弾となるシグレ(36.5mm、3/16oz)だ。グリフォン・ゼロが甲虫類を連想させたのに対し、シグレは完璧なセミのアンドロイド。当時、デザイナーの伊東由樹自身が「虫時代の最終兵器」と表現した傑作は、本物のセミと錯覚するほど精巧なフォルムに半透明のエアロフレックス素材によるウイングを装備し、無防備に落下するセミの質感と柔らかな波紋をリアルに再現。それどころか“仁丹玉”と呼ばれる極小のラトルボールとカーボンラトルを内蔵し、アクションの強弱に応じて二通りの音を演出。ともすればインパクトに欠けるサイレントな虫系ルアーの弱点をも克服し、サウンドインパクトをもたらした。
当時、ソフトルアーによる虫パターンへのアプローチも加速するなかで、伊東がハードルアーにこだわった理由の一つがこのアピール力。ソフトルアー禁止のレイクにおいても使用可能で、風や濁りのなかでもしっかりと存在感を主張するシグレは、条件を選ばない“虫パターンの切り札”としてその能力をいかんなく発揮したのである。
メガバスはこの勢いを駆って、翌年の2008年にグランドシグレ(42.5mm、1/4oz)を追加。ベイトタックルでの扱いやすさを視野に入れたこのモデルには、大型のダブルフックを搭載。フッキング性能を高めると同時にスナッグレス性も大幅にアップし、カバー周りのビッグバス狙いにも大きな成果を挙げたのである。
マッチザベイトとしてのバリエーション
精巧なフォルムとリアルなウイング。浮かべておくだけでもバスを狂わせるポテンシャルを秘めた虫系ルアーだが、シーズンを通して使う間には、この切り札をもってしてもバスに見切られるシーンが訪れる。その原因のひとつが微妙なサイズ感、いわゆるマッチザベイトである。
セミやバッタ、甲虫類など雑多な虫がランダムに落下する状況は別として、特定の虫がまとまって落下するとき、バスはカラーよりもそのシルエットに対して非常にセレクティブな一面を見せる。セミパターンではこれがとくに顕著で、ハイプレッシャーレイクのビッグバスほどそのサイズをシビアに見極めているふしがある。
2016年、そんなシビアなシーンを見据えて新たにラインナップされた“タイニーシグレ”(30.0mm、2.7g)は、そのパズルを埋める最後のピース。大型のセミを捕食しているときに有効なシグレ、グランドシグレに対して、タイニーシグレは春ゼミ、ヒグラシなどのスモールシケーダを選んで食っているときの必殺ルアーとなる。言い換えれば、このマッチザベイトがハマった場合、食ってくるのはよりセレクティブなビッグバス。小さいシグレ=小バス狙いではないのである。さらにこのサイズの登場によって、北国のアングラーたちはある情景を想起することだろう。「落下昆虫を捕食するサマーパターンのビッグトラウトゲーム」にジャストフィットするのが、タイニーシグレだからだ。
そして2016年にはもうひとつ、鉄壁のメガバス虫軍団を構築するためのルアーとして、ビートルX“ホバクロ”もデビュー。このルアーはシグレよりも増したボディ体積と、比重を高めたエラストマー素材によるウイングの採用によってロングキャスタビリティ性能を高め、より遠くのオーバーハングを狙い撃つことが可能。さらには、圧倒的な水面撹拌力による“ハイピッチ・ホバリング・クロール”アクションによって、ピンスポットのみならず広域ウィードエリアの水面や、マットカバーの隙間に出現するオープンエリアなどを、横に広く引き倒してバスを誘い出すことも出来る。いわば、リアルなカナブンの形をした“止めても沈まないバズベイト”なのである。
“世界一妖艶な蝉”のキャッチフレーズから10年のときを経て、オリジナル、グランド、タイニーの3サイズにビートルXまで加わった鉄壁のラインナップ。もはや、いついかなる場面においても、メガバスの虫パターンに死角はない。