メガバスが誇るクランクベイトの代名詞
バスフィッシングの長い歴史のなかで、バスを釣るための理論は日々研ぎ澄まされ、毎年のように新しいルアーやテクニックが開発されている。その流れのなかで最も古くから存在し、今なお淘汰されることなくその地位を不動のものとしているのがクランクベイトというカテゴリー。今も昔も、バスフィッシングを組み立てるうえでクランクベイトは決して外すことのできない重要な戦略である。
クランクベイトのストロングポイントは、広いレイクを素早くサーチするレスポンスの良さと、ピンポイントを狙い撃つ食わせの要素を兼備していることだろう。ワンキャストで水面から一定の水深までを探ることができるうえ、各モデルには潜行深度を筆頭にその役割と使うべきシチュエーションが明確に設定されているため、バスがどこにいてどんな動きに反応するのかを、いち早く知ることができるのだ。初めての釣り場や急な状況変化に直面しても、クランキングならシステマチックにフィールドを斬っていくことが可能である。
また、クランクベイトはオイカワやヨシノボリといった小魚を演じるだけでなく、ザリガニやエビなどボトムの甲殻類を模した誘いも得意技のひとつ。使い方次第で実に多彩な働きを見せてくれる、奥の深いルアーなのである。
クランキングの世界におけるメガバスの歴史を紐解くと、1987年に製作されたZ-CRANKにまで遡る。以来今日まで、常に時代の先端を行く斬新かつ普遍の名作を輩出。2015年の時点でその数は実に13系統・37アイテムにのぼる。充実のラインナップは「クランクベイト王国」と表現しても決して過言ではない。
ここで紹介するDEEP‐Xシリーズは、そんなメガバスのクランクベイト軍団のなかでも中核をなす存在。日本のクランクベイトを代表する「顔」としても、広く世界にその名を轟かせている。メガバスルアーの代名詞ともいえる精巧で美しい造形と、考え抜かれたテクノロジー、さらにはバスフィッシングの本場・アメリカにおいて数々のメジャートーナメントを制してきた実力と実績。驚くべきことにその原型は、30年前のZ-CRANKに見ることができる。
実はこのウッド製ハンドメイドプラグには、当時すでに重心移動機構を搭載するモデルも存在していた。メガバスはまったく新しいコンセプトと機能を持つ超高性能クランクベイト、DEEP-Xを開発するにあたり、そのボディよりも先に、独特な内部構造である多目的重心移動システム(PAT.)のシミュレーションモデルを先行開発して実験を行っていたのである。
完成に至る過程には、偶然がもたらすドラマチックな出来事もあった。それは朝から雪が舞い落ちる冬のある日のこと、いつものように試作品を持って小さなダムに出かけた伊東由樹は、凍った地面に足を取られて堰堤から7m下まで落下してしまう。自身が大怪我をするだけでなく、精魂込めて作った試作品もバラバラに砕け散ってしまうという悪夢。しかし立ち上がった伊東が目にしたのは、砕けた試作品に構築された、斬新な重心移動レイアウトだった。複雑な計算と無数のシミュレーションを繰り返しても得られなかった「神の設計図」が、落下の衝撃という予想だにしないアクシデントによって伊東の目の前に示されたのだ。
その晩、伊東は病院にも行かず工房にこもって新たな試作品を組み立て、ついに、たったひとつの重心が飛行バランス・潜行アングル・スイミングアクションの3つを理想的にコントロールする世界初の多目的重心移動式ルアー・DEEP-Xを完成させたのである。
世界中で特許を取得し、クランクベイトに数々のアドバンテージをもたらしたこの多目的重心移動システムは、メガバスが追及する近代クランクベイトフィッシングにおいて必要不可欠のテクノロジーと言って差し支えないだろう。
DEEP-Xは日本国内のデカバス捕獲はもとより、アメリカのトーナメントにおいてもバスプロたちに数々の栄誉をもたらし続けているのである。