ルーツは池原ダムの流木
精巧で無駄のないフォルムに込められたテクノロジーと、そこから生まれる比類なき釣獲能力、そして感動。工業製品としての完成度と、釣り道具としての感性を高い次元で両立したドッグXは、伊東由樹およびメガバスが追求するルアーのあり方を、シンプルかつ雄弁に物語る代表作だ。
量産品としてのドッグXのデビューは1990年。しかしその原型は、1979年に伊東が池原ダムへ釣行した際、落ちていた流木を削って作ったペンシルベイトである。「ぺん太」と名付けられたそのプラグは上反り型で、独特の形とアクションを持ち、とてもよく釣れたという。
「たまたま拾った流木が上反りの形状だった。だから初代ドッグXも上反り型なんです」という伊東の言葉は謙遜半分だとしても、その独創的なコンセプトを名作と呼ばれる域まで高め、現在に至る過程はすべてが必然である。
トップウォーターゲームの概念を破壊した“釣れるペンシルベイト”
「ぺん太」が「ドッグX」の原型であることは紛れもない事実だが、それはただ単にハンドメイドの「ぺん太」が、量産型の「ドッグX」になったというだけの話ではない。なぜならドッグXの開発は、アングラー・伊東由樹をデザイナーとして覚醒させる大いなる一歩であり、国産トップウォータープラグの歴史における革命的なビッグバンとなったからだ。
写真を見れば分かる通り、「ぺん太」はウッドのボディにペイントで模様を付け、ガラスアイを埋め込むという手法で仕上げられている。これは当時のトップウォータープラグの王道ともいうべき装飾である。しかし製品となったドッグXはよりベイトフィッシュを意識し、ホンモノの小魚以上に生命感あふれるルックスとなっている。これを実現したのはメガバスが独自に研究、確立した数々の塗装技術。どちらかといえばアーティスティックな価値観が釣果に優先し、リアルメイクのルアーで釣果を求めることは邪道とすらいわれたそれまでのトップウォーターシーンにおいて、ドッグXの精巧な外観は異端であった。
さらに、当時のトップウォーターゲームにおける「キャスティング」は「アキュラシー」を意味し、立木や橋脚といった目に見える障害物を正確に撃つことが最大のアイデンティティー。広大なシャローを効率よくトレースするレスポンスやキャスタビリティーは最優先事項ではなかった。当然ドッグXも、プロトの段階ではそれを前提に設計されていた。
しかし、いくつかの初期サンプルを手に紀州のリザーバーを渡り歩いた伊東は、想定通りのシチュエーションで想定以上の結果を出した反面、足場を限定されるオカッパリやロングディスタンスの攻防においては想定外の苦戦を体験。自分が使うだけならこれで良いが、人も場所も選ばず、よく飛んで、いかなる条件でもフィーディングをメイクできるルアーを作るためには、釣師としての固定観念を封印し、よりバーサタイルに、より客観的に性能を判断しなければならないと気付いた。そしてこの日を境に、伊東は「ゲームフィッシャー」であることを捨て、「テストフィッシャー」の道へと足を踏みいれたのである。
こうして徹底的に試された “釣れるペンシルベイト” ドッグXはいろいろな意味で従来のトップウォータープラグの概念を覆し、ピンポイントでの釣獲能力はもちろん、広範囲をチェックするサーチベイトとしても類稀なるポテンシャルを発揮。1992年には本場アメリカのトーナメント・メガバックスにおいてランディ・ブロウキャットが大会最大魚を記録、その実力は日本国内に先んじて、アメリカのトップトーナメンターを中心に米国市場で広く認知されることになる。