手にした一つのルアーで刻々と変化する状況に対応できたら…。XPOD(エクスポッド)は、アングラーの想いを形にした世界初の「トランスフォーメーションプラグ」。6段階+αに調節可能な「コマンドビル」を搭載したユニークで先進的な外観は、2008年に発表されるや否やバスアングラー注目の的となり、ビッグバスを選んで釣ることのできるプラグとして知られることになった。今回はこのXPODについて、誕生のヒストリーを紐解いてみよう。
前回のヒストリーオブメガバス(POP X)のなかで、『実は伊東は1996年に、POP Xとは対極となるハイアピールポッパー“ガバリン”を試作。このルアーはオーバーハングや立木のピンスポットを“ネチる”POP Xに対して、琵琶湖や霞ケ浦といったビッグレイクをダイナミックに斬っていくタイプ。それがのちにメガバスのとある名作ルアーに発展するのだが、その話は次回のヒストリー・オブ・メガバスでお伝えする』と記述した。そのルアーこそが、ここで紹介するXPODなのである。
重複するが、前身となるガバリンは、POPXをリリースした後の1996年、広範囲にアピールするポッパーとして伊東がハンドメイドで製作した作品。POP Xとは反対に、激しいスプラッシュと大きなアクションを得意とするポッパーだった。
●ガバリン(1996年)
POPXをリリースした後、今度は広範囲にアピールするポッパーにチャレンジすべく、伊東がハンドメイドで製作した作品。激しいスプラッシュ、大きなアクションを演出。
期待通りの成果を挙げたガバリンは、タフコンディション下の伊東の戦略として組み込まれたが、外観はいまのXPODとは似ても似つかず、もちろんコマンドビルも存在していない。「トランスフォーメーション」という概念は、ガバリンをXPODに進化させる過程で伊東が具現化した、まったく新しい発想だったからである。
当時の状況を振り返り、伊東はこう語る。
「POP Xではくぐもった音やライフライクな動きを追求し、ガバリンはどちらかというと水を強く弾き返すようなポップサウンドにフィーチャーした。どちらも条件に特化したルアーです。しかし当時の私のバスフィッシングは、すでに9割以上が雑誌、TV、DVDなどロケの釣り。限られた時間内に釣って見せなければいけない“仕事の釣り”でした。同時に、私たちがサポートしていたアングラーも全員がトーナメントアングラーです。そこで私が求めたのは多機能であるということです。ここぞというチャンスにルアーを付け替えていろいろ試すのは楽しい作業ですが、魚を釣ってナンボのプロアングラーにはそれ自体が大きなタイムロス。だから一つで多様なパターン、多様なロケーションにアジャストできるルアーがほしかったんです」。
伊東はそれを、トップウォーターのステージで実現できないものか?と考え、1個のルアーを様々なモードにトランスフォーメーションすることに挑戦した。あるときはペンシル、ある時はポッパー、あるときはダーター。バックウォーターではスイムベイトにも変身する。そんなふうにモードをシフトすることができれば、1個のルアーを軸にしてパターンを組み立てていくことができる、と。
ただその順序としては、最初にXPODという本体があり、そこに多機能を組み込んで行ったわけではない。最初はガバリンをベースにしたハイインパクトのスプラッシュポッパー、次に「より泳ぐペンシル」を突き詰め、さらに、POP Xのようにサウンドは甘めだがねちっこいアクションを出せるポッパー、サブサーフェスの優秀なダーター、スイムベイト…というように、モードごとに理想のルアーを造っていった。
「そしてその最大公約数を探り、一つにまとめたのがXPODです」と伊東。つまり、一つのルアーを何にでも使えるように改造したのではなく、それぞれのカテゴリーでベストな動きをする5タイプ以上のルアーを最初に想定し、それを一つの形に融合していったのだ。フォルムもはじめからこの形と決まっていたわけではなく、すべての要素を満たす最大公約数として、伊東の手と感覚が必然的に導き出したものである。
「スプラッシャーモード、ペンシルベイトに特化したモード、ダーターモードなど…。そうやって、一つ一つのモードを完成させていきました」。
“ペンシルベイトモード”(コマンド1)から“ダーティング・スイムベイトモード”(コマンド6)、さらには“スキップベイト/ティーザーモード”(シークレット・コマンド)まで、7通りの顔を見せるXPOD。それぞれを使い分けて状況に対応するだけでなく、自分が求める動きを最もバランスよく演じるモードを見つけ、勝負ルアーとして決め打ちすることも、このルアーの有効な活用法である。